文字の持つ魅力を気づかせてくれる道具「あかしやの筆ペンとツバメノート」
街中や身の周りを見渡すと、飲料のラベル、駅のポスター、お店の看板など、筆字によるロゴや商品名などが当たり前のように使われていることに気づかされます。
デジタルフォント全盛のこの時代にあっても、生き生きと躍動感ある手書き文字に魅了される人は多いでしょう。
英文字にもデザインとしてのレタリングアートのようなものはありますが、文字のひとつひとつに「言霊(ことだま)」までも感じ取り、その表現を芸術にまで高めたのは東アジア圏の文字文化の大きな特徴ではないでしょうか。
「自分の名前を綺麗に書けるようになりたい」気軽に参加できるワークショップ
東京・鎌倉で定期開催されている筆ペン字のワークショップ「籠中会(ろうちゅうかい)」。
仕事帰りの会社員やOL、学生、主婦など幅広い層の参加者たちが集中した顔で筆ペンを握っています。
主宰するのは書家でデザイナーの國廣沙織さん。
透き通るような涼やかな声でお話しされる気品あふれる女性です。
書道教室というよりはワークショップといった雰囲気で、國廣さんの書いたお手本に習って筆ペンでノートに自分の名前を黙々と練習するという講座です。それも、中国書道の「楷書・行書・草書・篆書・隷書」という五書体で書くという他では見られない体験ができるのもおもしろい特徴です。
何より、自分の名前を題材にするのは思った以上に楽しく、苗字のルーツについて考察したり、日本語の文字の美しさを再認識したりと、2時間半の講座はいつも和気あいあい。
「字を書くのがこんなに楽しいとは」
「集中して字を書いていると、ケータイなども忘れてデジタル・デトックスできます」
「習いたい時だけ参加できるから都合がいい」
「筆ペンだから普段に実際に役立つ」
など参加者の評判も上々です。
開講からこれまでの約1年間で開催は33回を数え、150名もの参加者になりました。
「世の中には字を綺麗に書きたいと願っていた人がこんなにたくさんいるんだ」と國廣さん自身も驚いているそうです。
いったんは離れた書の道。ふたたびめぐり合い天職に
國廣さんの書道歴は小学一年から高校卒業まで。その後はとくに関わることもありませんでした。
26歳頃、語学を学びに海外留学を決意。その際、国際人の素養として日本の文化をきちんと学んでおこうと、着物の着付けを習ったりする中で書道熱も再燃。「自分の一番の特技。なんとか仕事にできないかな」と考えるようになり、書道具を持っていざイギリスへ半年間の留学。
ある時、現地で日本文化を紹介するイベントがあり、國廣さんが外国人の名前を漢字やひらがなで書いてあげて、それを本人がまねて書いてみるというワークショップがありました。
これが大盛況で、3日間で150人ほどの参加者を集め、密かな予感と手応えを感じたのでした。
帰国後上京し、自身が主宰する「籠中会」を立ち上げて活動開始したのが3年前。当初は着物を着て能や歌舞伎、落語やお茶など日本文化を鑑賞する活動内容でした。
しかし本来の目標は書道で活路を見出すこと。とはいえ最初はどうやって仕事に繋げればいいのか分かりませんでした。
そんな中で、会の講演に招いた講師の名前を掛軸にして筆字で書くなど、おりを見ては書道家としての顔もアピールし、少しずつ認知を広げていきました。
さらに友人からの「名前の書き方を教えて欲しい」との要望をきっかけに、1年ほど前にワークショップをスタートさせたのでした。
新たな展開。紙に書くだけの文字から飛び出した立体アクセサリー
最近、國廣さんは新たな文字表現のジャンルを生み出しました。ひらがなを立体オブジェクトにしたアクセサリーです。
名刺デザインやロゴ制作などを請け負うにあたって、自分は紙に書くことしかできないと気づき、デジタル技術を習得するため半年ほどグラフィックの学校に通いました。
その時の課題作業で紙に書いた文字を縦につなげてみたら面白かった。のちにそれをレーザーカッターで切り抜いたものを何気なくFacebookに投稿したら、「欲しい!」という声が多数上がったのです。
そこで年明けから商品化へ向けて動きだし、何度も試作を繰り返して、真鍮を使ったアクセサリーとして販売を開始しました。
モチーフとなる文字は、「うつくしい」「とうきょう」「ありがとう」など、日本語としての音の響きも美しく、ひらがなの持っている柔らかで優美な曲線フォルムを感じさせるものをチョイス。紙の平面から抜け出して、存在感のある立体オブジェクトとして再構成しました。
さらに名前をオーダーメイドで彫ってもらうこともできます。自分の名前をイヤリングにして身につける。これほど強烈で個性的な自己主張もなかなかありません。
自分用にはもちろん、プレゼントに贈られたら最高じゃないでしょうか。
現在、ホームページやEtsyといった販売サイトでも取り扱いを始め、日本語やひらがなの魅力を世界に向けて発信しています。
そして、現在『Hiragana』の制作費・宣伝費を集める為、クラウドファンディングサイトMakuakeでも支援募集しています。
※毎日新聞に掲載された記事「ひらがなピアス:書家の国広沙織さんが考案 ネットで資金募る」
文字書きのプロが絶賛するこだわりの筆記用具とは
そんな字の専門家がオススメする「これまじ!」は、やはり筆記具。
籠中会でも使用しているという、江戸時代初期から続く老舗「あかしや」の筆ペンです。本体部分にさまざまなカラーやデザインの和紙がほどこされ、雅な風情を感じさせてくれます。
おどろくのはそのバリエーションの豊富さ。これまで150本ほど購入した中で、図柄がカブったことがほとんどないといいます。オンリーワンのこれぞ「マイ・ペン」といった愛着も生まれてくるでしょう。
もう一つ、ちょっと懐かしいツバメのノート。とりわけ無地のノートを愛用しているそうで、バラバラの紙に書くよりもきちんとまとめられるのが利点。
ツバメノート B5ノート3冊パック 8mm×28行 40枚 W40S-3P
ツバメノート |
籠中会でのレッスンはカジュアルさがウリのひとつ。そこで使う道具も特別なものではなく、手軽に購入できる点がある意味こだわりなのかもしれません。
文字の持つ魅力をあらためて気づかせてくれる文化的な活動
今後の展望としては、籠中会はとくに自分の中でも続けたい核となる活動だそうで、10年ぐらいゆるゆると継続したいそうです。
他にも、テナントの内装で鉄職人と組んで文字の透かし彫りを演出するといったアートディレクションを手掛けたり、フォトグラファーの写真作品に文字をミックスしたり、他の分野とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。
訪日外国人の数が過去最高を記録するなど、国際交流がますます盛んな時代。日本の素晴らしさ美しさを、書き文字を通して世界に向けて発信し、同時にそれをわれわれ日本人にとっても再認識させてくれる素敵な活動だと感じました。
(取材:板羽宣人 / 記事:Rose)
今回のゲスト 國廣沙織さん (facebook)
書家兼デザイナー
広島県出身 鎌倉在住
書を基盤に文字に関する活動をしています。企業や店舗ロゴ制作、本の題字、命名書、印鑑作成、名前を5種類の書体で書く教室「籠中会(ろうちゅうかい)」、漢字を動きでたのしむwebサイト「KANJI~感じる漢字〜 」など
イギリス最大の日本文化イベント「HYPER JAPAN 2011」出演
「日米芸術家交換プログラムイベント」出演
「目黒区国際交流フェスティバル」出演
國廣沙織公式HPwww.saorikunihiro.com
ひらがな公式HPwww.hiragana.tokyo