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「場」の専門家が選んだ”これまじ!”はこれ!〜生命が集う「森」と人が集う「ギター」の音色〜

中村真広さん世の中には「物」をつくる仕事があり、「時間」や「サービス」といった目に見えないものを提供する仕事もあります。
今回ご登場いただく中村真広さんは、「空間」や「場」をつくる仕事
その名も「株式会社ツクルバ」の代表取締役にしてクリエイティブ・ディレクターです。

渋谷でコワーキングスペース「co-ba渋谷」を運営し、多くの起業家やクリエイター、働く人・夢見る人が集まる「場」を提供しています。

co-ba shibuya

co-ba shibuya


そこに至った経緯を簡単に紹介しておきましょう。

コワーキングスペースという「場」にたどり着くまで

中村さんはもともと建築学科の出身で、大学院生時代から「みやしたこうえん」のスケボーパークの設計に携わるなどの経験を経て、建築前のグランドデザインを手がけることに興味を持ち、「仕掛ける側に回りたい」との思いを抱きます。
そしてデベロッパーである不動産会社に新卒入社。まではよかったのですが、リーマンショックのあおりを受け、わずか半年で辞めざるをえなくなってしまいます。

それを期に、「マンションなどは売ってしまったらそこで仕事は終わり。建築のあとの段階に関わりたいなぁ」と思うようになり、今度は博物館やそのコンテンツまでを手がけるミュージアムデザインの仕事に就きます。

そんな中、2011年2月に仲間とカフェを出すことに。やがてこれが中村さんの進む道を決定づけます。

2011年2月に仲間と出したカフェ

2011年2月に仲間と出したカフェ

大きな施設と対比して、カフェは小さいゆえに、直接お客さんの顔が見えるという喜びが感じられる。「自分は誰のためにデザインをしているのだろうか」と自問し、会社を辞めることにしました。

そしてフリーのデザイナーに。
現在共同経営している信頼できる相方と、「場」をつくる事業をしようと「ツクルバ」を立ち上げます。

こうしてクリエイターや起業家、フリーランスの人のためのシェアオフィスを提供したい、との思いから作ったのが「co-ba」なのです。語意はあらゆるものを創造する「工場」からきています

人間社会において「場」というのは、単なる空間的な位置や広がりを指すだけでなく、人や知識や情報を繋げるクロスロードです。
現在「co-ba」には100名ほどの利用者がいますが、こうした環境の中からいろいろな社会の活力が生まれてくれることを中村さんは期待しているのです。

そこに森があるから

「場」という捉えどころのない概念を形にしてきた中村さんの「これまじ」は、「森へ行くこと」

「…森?ですか?」
と思わず聞き返してしまいました(笑)
森

どういうわけか、森へ行くことが単なるマイブームを越えて中村さんの中で大きなテーマになりつつあるらしく、そこにどんな目的や思いがあるのか、お話しいただきました。

踏み入れて初めて知った、日本の森が抱える現状

ご存知の通り、日本は国土の4分の3が森林で、豊かな自然に覆われていると誰もが思っていることでしょう。
しかし、実は日本の森は手を入れていないのでダメになっているところも多いという事実を、中村さんは森林に関心を深めるうちに知りました。

いったいどういうことでしょうか。

戦後、木材需要の高まりを受けて、大規模な植林が全国的に行われました。ところが、経済の成熟とともにそのニーズは減り、各地で森林は放置されました。
でも植えっぱなしではダメだったのです。

人の手が加わっていない自然林は、「動的平衡」といって、木が生まれて死んで、それを肥料に木々の隙間からまた新たな生命が生まれ、という具合にまるで永久機関のように生命の輪廻を繰り返し、うまく環境のバランスを保つことができています。森

一方で人工林は、人間が植樹などでつくり出した、自然本来の姿でない森林です。

その結果、たとえば狭すぎる木々の間隔が原因で幹が太らず、上部ばかりが葉を繁らせ、それが日光を遮って暗い森になり、草木が生えなくなるということが起こります。
根の張らない土だらけとなった森は、地滑りや山崩れといった災害を引き起こしやすくなってしまうのです。

だから人間が適切に、過剰な木を間引くなどして調整してやる必要があるんです。いったん関与したならば、ずっと関与し続けなければバランスを保てないのです。
野生の動物に餌を与えて育てると、自分では生きていけなくなるのと似ているかもしれませんね。

皮むき間伐を行う中村さんたち

皮むき間伐を行う中村さんたち

つまり日本の森は、高度経済成長期のような、森林伐採や乱開発による環境破壊が原因なのではなく、「誰もコントロールしない」ことによる荒廃化が進んでいたのです。

放置ではなく関わることで森は蘇る

中村さんは、岡山県の西粟倉や奥多摩、西伊豆などの森を訪れ、森の真の姿を肌身で感じてきました。

その中で、各地で林業ベンチャーが立ち上がって、森を蘇らせようとする活動が盛んになっていることを知りました。

たとえば西粟倉では現在、間伐材を利用した床材の製造販売に力を入れるなど、村をあげて森林の再生と地域の活性化に取り組んで成果をあげています。

西粟倉村のホームページ

西粟倉村のホームページ

「そこの床板がまさに西粟倉の間伐材ですよ」
とオフィスの床を指差して教えてくれました。

その西粟倉で、中村さんはホタル、それも「ヒメボタル」という本当に綺麗な環境でしか生息しないホタルが飛んでいるのを見て、ものすごく感動したそうです。
澄んだ水と静かな茂みの中に見つけた小さな光に「こんなにも美しい森を、何としてでも守らなければ」という使命のようなものを感じたといいます。

森はまぎれもなく「場」です。豊かな草木と鳥や虫、動物といった生命をつなぐ 「場」なのです。
しかもその中で、動植物が自分の居場所を求めて熾烈に生き抜こうとする様は、われわれの生きる社会ともどこか似ています。

きっとそのことが中村さんを惹きつけ、足を向かわせるのでしょう。

かき鳴らせばたちまち人が集う。トラベルギター。

「これまじ」品をもう一つ。
普通のギターよりもふた周りほど小さい「トラベルギター」
名前の通り、旅行等に携帯しやすいコンパクトなギターです。
トラベルギター

ギターは中高生の頃から少しかじった程度だという中村さんですが、
「音があると人が集まる。その現象が好き」
なのだそうです。

ギターの音色をきっかけに、歌が始まったりワイワイ盛り上がったり、コミュニケーションが取れる。
これもやっぱり「場」を生み出すアイテムにほかなりません。

どこまでいっても「物」ではなく「場」というものに価値とこだわりを感じておられるようです。

巨大なコンクリートの建築物から、手つかずの緑いっぱいの森林まで。
中村さんにとってはどちらも人や生命の集う大切な「場」であることに変わりはなさそうでした。


(取材:板羽宣人 / 記事:Rose)

今回のゲスト
中村 真広(twitter / facebook

株式会社ツクルバ 代表取締役 CCO / クリエイティブ・ディレクター

1984年千葉県生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。大学院時代に渋谷「みやしたこうえん」のスケボーパークの基本設計を担当。この経験を通じて、建築が生まれる前段階=枠組みのデザインに興味を持ち、(株)コスモスイニシアに新卒入社。しかし、リーマンショックの影響で入社7ヶ月で転職。その後、ミュージアムデザイン事務所(株)ア・プリオリにて、ミュージアムの常設展示の企画など、空間を埋めるコンテンツづくりを経験した後、フリーランスとして活動。2011年8月に(株)ツクルバを共同創業。「場の発明」を通じた、ソーシャル・キャピタルの構築を目指して活動している。


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