キャンプにとって炎は主役。BBQもダッチオーブンの調理も可能な一生モノの焚火台
東京から一時間、神奈川県逗子市。雑木林に覆われた小高い山の開けた場所に、慣れた手つきで薪を焚き火にくべる男性の姿がありました。今回のゲスト「子ども原っぱ大学」を主催する塚越暁さんです。
塚越さんは少年時代を自然あふれるこの逗子で過ごしました。山で秘密基地を作ったり、海で魚を捕ったり、それが塚越さんにとって当たり前の遊びでした。
やがて大人になり、かつてのわんぱく少年はリクルートに入社、雑誌編集に携わります。
直接顧客の反応を感じられる仕事だったのでやりがいもありました。ところが配属が変わり、経営企画など数字を追いかける業務に。
学ぶことも多かったですが、なんだか収益目的の歯車になったような気がして、本当に人生をかけてやりたいことなのかと自問します。
家に帰れば二児のパパ。
こどもを野山に遊びに連れて行く中で、自分の方が夢中になってしまい、
「大人も子供も一緒に遊べる場をつくりたい」
と考えるようになりました。
自分にとってごく普通だった野遊びを、現代の親子は欲しているんじゃないか。そういうニーズが意外とあるんじゃないか。
そんな思いから「子ども原っぱ大学」はスタートしました。
Facebookだけを頼りに手探りで始めたイベント
「子ども原っぱ大学」を始めた当初はまだ会社勤めをしながらの週末プロジェクトでした。
大学というからにはイベントを「学科」と位置付けて、最初の試みは「秘密基地づくり学科」。
ところがいざ集客しようにも、どうやって告知していいのか皆目わかりません。
できることといえば、Facebookに投稿するぐらい。でもそれにはためらいがありました。普段、会社で経営に関わる業務をこなす自分が、突然「自然と遊ぼう」なんて言い出したら、「あいつ、おかしくなったんじゃないか」と笑われるのでは。
だけど、これは自分にとって譲れない大事な部分。
そんな思いの中、勇気を出して投稿してみると、会社の仲間が「おもしろそう」とシェアしてくれたり、思いのほか賛同を得られたのです。結果、多くの参加者を募ることができ、赤字とはいえなんとか成功させることができました。
このことは塚越さんにとって大きな自信となりました。
これまで、会社ブランドでしか仕事をしたことがなかった塚越さんにとって、自分で事を起こしたのは鮮烈な体験でした。自分の核になる信念をさらけ出すことで人が反応してくれる。なにより、自分発信のマイマーケティングでお金が動いたという事実に我ながら驚いたといいます。
手応えを感じ、昨夏、11年勤めた会社生活にピリオドを打ちました。
大人も子供も消費社会にどっぷりの世界で
他にも「ホンキのカメラ学科」「星空マイスター学科」など数々のイベントを企画しながらも、自分はいったい何を提供しようとしているのか、まだはっきりとは自覚できていませんでした。自分のしたいことは「教育」なんだろうか。少し違う気がする。
そんな疑問に応える出来事がありました。
ある小学校で物づくりのプログラムを催した時のこと。
時間内に制作できず、未完成で終わった一人の生徒がなにげなく放った言葉でした。
「金払ってんのにこんなものしか持ち帰れないのか」
衝撃でした。
こちらとしては、結果うんぬんではなく、取り組むプロセスにこそ価値があると思っていたのに、この子は費やした時間や費用に見合う見返りを期待している。サービスの対価として捉えている。プロセスに対する主体性が欠けていて、結果だけを求める姿勢。それはきっと親や周りの大人の価値観が投影されたもので、消費社会にどっぷり漬かっている表れなのだろう。
このような子どもに対して、いや大人も含めて、いったい何を提供すればいいのだろう。
出てきた答えは、「過程を親子で一緒に楽しむことに一番の価値がある」。その体験を提供することこそが自分の役割なのでは、と思い至ります。
東京からほんの一時間。高いお金を払ってバケーションに行かなくても、こんな身近に自然はありました。親子で自然と触れ合える体験は手の届くところにあったのです。
火を楽しむ。キャンプに本格的なアウトドア用具
大自然の中でより深い体験をしようと思うなら、火は欠かせません。
そこで「これまじ!」アイテムはアウトドアで使う火に関するものを紹介します。
スノーピークの焚き火台
「一生モノだよ」と言われて買ったという「スノーピーク」製の焚き火台。
もともと金物問屋だったのが、アウトドア用品を手がけるようになったらしいです。
キャンプや砂浜のバーベキューなどでは、地面で直接の焚き火は禁止のことが多いのですが、これを使えば場を汚さず省スペースで焚き火や料理の火が起こせます。
すり鉢状になっているため、少ない炭や薪で効率的に燃焼させることができるのが特徴。
また、オプションを使いこなせば、BBQやダッチオーブンの調理も可能です!
設計もとても実用的にできていて、使用後は灰や炭を捨ててパタンと折りたたむだけ。コンパクトに収納可能です。
スノーピーク(snow peak) 焚火台 M ST-033
スノーピーク(snow peak) 2012-03-12 |
実際に塚越さんはテキパキと炭を起こし、ホカホカの焼き芋を焼いてくれました。
「夜になるとこの炭の残り火が星みたいにチカチカしてすごく綺麗なんですよ」
そう言われてじっと炎を見ていると、互いに無言になるほど吸い込まれてしまいます。
こうした時間こそが自然の中で遊ぶことの醍醐味なんだなぁと、忘れかけていた何かが取り戻せたような気がしました。
もっと日常の中に非日常を与えたい
自然の中で遊ぶ体験を提案する「子ども原っぱ大学」。事業としては採算性など問題は山積みではあります。
これまでのイベントは週末を中心に単発で行うことがほとんどで、価値を提供できる家族の数、時間に限界がありました。リーチできる数が乏しい、つまりは生み出す価値も少ないということ。
だったらもっと日常に寄り添って遊びの提供ができないか。そう考え、一年間を通しての「原っぱ大学」をリリースしました。
たとえばダンボールの骨組みだけ家庭に届けて、あとは創意工夫で遊んでもらうなど、日々の生活に入り込む遊びの提案。そして週末にはこうした野山や空き地などに集まったり、またオンラインでコミュニティー内でのやり取りをしたりといった「家・集まり・オンライン」の3本柱を構築したいと考えています。
一方、個人的な生き方として目指す方向としては、組織に属さずともやっていけることを体現したい。そしてその背中を子供に見せたいと語ります。
大それた目標は今のところ立てていませんが、「成熟社会のあり方のひとつの事例ぐらいにはなれるかな」と既存の価値観にとらわれない生き方を選択したことだけはたしかです。
こうした自然への回帰欲みたいなものは、日本だけでなく、たとえばアフリカでもケニアのナイロビなどといった大都市では同様の傾向があるそうで、遊び方が分からない子供が増えているといいます。これも時代といえばそれまでですが、消費マインドではない大人を育てることで子供もそれを見て育つ、そんな発端にしたいと塚越さんは考えます。
けっして押し付けではなく、環境を与えることで何かを学んだり感じたりしてくれたら、という願いが根底にはあるのです。
野原を駆け回り、秘密基地を作ったり落とし穴を掘ったりしたあの頃。誰もが原体験として持っているキラキラしたかけがえのない少年時代。
それを今こそ大人も子供も取り戻そう。そんなありそうでなかったライフスタイルの提案に今、挑み始めたところです。
パチパチと火の粉を上げて赤く燃える焚き火を見つめる塚越さんの目は、もうすっかり少年の目になっていました。
(取材:板羽宣人 / 記事:Rose)